冬休み定番の宿題「読書感想文」が教育的に問題だらけな理由
2020年からの教師問題②
◆文科省が目指す教育の理想像と「読書感想文」の新たな形
さて、このような問題を抱えた「読書感想文」ですが、近い将来の教育においては致命的な欠陥になると言うほかないでしょう。その理由は、文科省が2020年に実現を目指す教育改革の存在があるからです。
この教育改革に際して文科省は「学力の3要素」と呼ばれるスローガンを設定しており、かなり噛み砕いてその内容を整理すると、「課題解決に向けて協働する力」「自分の考えを表現する力」「クリエイティブな思考力」という大きく分けて三つの力を学校現場で生徒に鍛えさせようというものです。このスローガンに基づいて、今ある教育の形はまさにこれから急激に変容していくわけですが、この三つの力を参照してもらえれば、「読書感想文」が未来の教育の欠陥たるゆえんも明らかになるのではと思います。
感じたことを自由に書くことができず、かつ書き方に関してなんらかのアドバイスがなければ、「自分の考えを表現する力」は当然鍛えられませんし、自分の思考が最大限働くような本を選んで書くことができなければ、そもそも自分の考えを明確にすること自体難しくなります。
要するに、従来の形の読書感想文は消える可能性が高いのです。
しかしながら、この読書感想文という課題の問題は手法にあるのであり、「読書」という行為そのものにはありません。むしろ読書は推奨されてしかるべきことですし、なんとか学校としても別の形で、読書と結びついた学習を推し進めたいところではないでしょうか。
では、2020年の学校の授業で、従来の「読書感想文」をどのような形に昇華していけばいいのか、考えてみます。
ここで、日本の従来型読書感想文を対象化するために、一度海外の例を見てみましょう。
欧米では、生徒に読書を推奨する際には、「BOOK REPORT」という課題を出すのが一般的です。これは2段階の作業を必要とするもので、まずは、フォーマットにそって本の内容を要約していく形式になっています。本の内容をきちんと掌握することが目的です。
その上で、本の中で作者のこだわりや主張が見られる部分について、教師の方で「問い」を立て、生徒たちに議論させるのです。
この「問い」というのは、たとえば夏目漱石の『こころ』であれば、次のようなものになります。
これに答えるのは、簡単なことではありません。
全文を読んで、まずは漱石が「先生」と「K」の人間関係をどのように設定しているのか、そして、この小説を通じて何を訴えたかったのかを考えた上で、さらに、「もし自分がKの立場であればどうするか」を考えなくてはならないのです。
そのためには、読解能力はもちろんのこと、自分自身の人との関わり方、もっと言えば行動美学はどのようなものかを見つめ直し、考えて、表現することが必要となります。
「意見文の書き方」や「要約文の書き方」など、「表現」の仕方は、また別途学ぶ必要がありますが、読書を通じて自分の考えを判断し表現できる、このBOOK REPORTのようなやり方は、文科省が目指す未来の教育に対応した学習方法と言えるでしょう。
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